こんにちは。ENTiP 弁理士・行政書士の山中と申します。

当職が大好きなレコード/CDのタイプとして、

「コンピレーション(compilation。通称“コンピ”)」

というものがあります。「編集盤」という意味ですので、本来は「(アーティスト単体の)ベスト・アルバム」などもその範疇に入るのですが、ここでいう「コンピ」とは、複数のアーティスト(Various Artists)の楽曲を収めた編集盤のことをいいます。

初めて「コンピ」に出会ったのは、1985年でしょうか。洋楽にハマり出した(&受験勉強に身が入らない)中3の夏、横浜ルミネに当時あった「テイトムセン」というレコードショップが、輸入盤12インチシングルを扱っており、好きになった2曲のそれを探しにいったところ、それらは見つからなかったのですが、逆に

「好きな2曲に加え、他にもいっぱいヒット曲が入ってるぞ!」

というレコードを発見し、おこづかいギリギリで購入したのがきっかけです。

しかし、その初めて買った輸入コンピ(レコード)である『HITS 2』は、
https://www.discogs.com/release/11430305-Various-Hits-2-The-Album?srsltid=AfmBOorhtiDLp4XBhr_O0fGDjwszd-sHHndQcFtmgFeX0n0caXJheMyf

先行していたコンピ・ブランドに対抗して発売されたものであることを、すぐに知ることとなります。そのブランドが

「NOW (That’s What I Call Music)」

というものでした。

1983年12月、イギリスでその第1集が発売されたのですが、これは当時絶好調だったインディー・レーベル「Virgin」(後、EMIグループに買収)と、メジャー・レーベルEMI(※現在はユニバーサル ミュージックに買収)が、それぞれ多くのNo.1ヒットを放ったその年、「83年のヒット曲集を作ろう」と企画されたもので、いきなり大ヒットを記録したのです。

 

Various Artistsのコンピレコードは、それまでも専門のマイナーレーベルから発売されていましたが、(単体アーティストによる)オリジナル・アルバムに比べ、その評価は低いものでした。人気レーベルがその分野に初めて参入し、クオリティの高い作品を発売したことで、「コンピレーション」に対する社会的評価が、大幅にアップしたのです。

その第1集の期待以上のヒットを受け、『NOW!』は“最新ヒット・コンピ”としてシリーズ化されることになります。年3回のホリデー・シーズン(春、夏、クリスマス)に、直近4ヶ月の(イギリスでの)ヒット曲が、レーベルを超えて収録される2枚組レコード(※88年ぐらいからCDがメインになっていきました)ですから、そりゃ売れて当然ですよね。

その後、『NOW』のコンセプト/ブランドは、アメリカや、そしてここ日本でも展開されることになり、後者については、私が入社した「東芝EMI」でその何作かに関わらせてもらったのは幸運だったのでした。ただ、当時一緒に『NOW』について働いていた仲間でも、

「イギリスでは『NOW』はまだ続いているよ」

というと、だいたい驚かれます。https://nowmusic.com/

音楽の聞き方が、CDからダウンロードに切り替わった(イギリスでCDシングルがあまり発売されなくなった)頃は、「ヒット曲をCDで所有できる貴重な作品」として、高い売り上げをキープしてきた『NOW』ですが、

さすがに「ストリーミング/サブスク」時代となってくると、自分の好きな楽曲を自由に編集して「プレイリスト」を作れるわけですから、コンピCD自体の存在価値もだいぶ失われてきたかなとは思います…とはいえ!長年買い続けてきた習慣を、簡単にやめるわけにはいきません、たとえ惰性といわれても(苦笑)。
(自分の所有している『NOW』シリーズのレコード/CD…の一部)

しかし、この春に出た『NOW 123』について、驚いたことがあります。

その1:収録時間が短くなっている!

CD1は、20曲も入っており、同好の友人に言われるまで気づかなかったのですが、実は

58分30秒くらいしか入っていない

のです。これって、LPレコード(片面30分弱でしょうか)1枚分くらいの長さです。CDフォーマット自体は、80分弱収録可能であるにもかかわらずです。

その2:シングル・ヒットしていない曲が入ってる!

かつても、「シングル発売直後に『NOW』に収録されたものの、あまりヒットしなかった」曲が収録されたことは何回かありました。しかし、今回全40曲のうち、UKシングルチャートにおいて

「最高位がTOP40以下」が、7曲

さらに

そもそも、TOP100に入っていない曲が、6曲

も入っていたのです。

しかし、これだけを見て、「『NOW』もクオリティが落ちたなぁ」と判断してしまうのは、早計です。この背景には、「ヒット曲の変容」「ヒット曲の概念の変化」があるように思うのです。まず、上記その1の背景には、

短い曲が増えている

ということが見て取れます。前述のCD1の20曲のうち、4分を超える曲はなく、3分以内が12曲もあります。この曲(UK最高位5位の世界的ヒット)なんて、「1分39秒」しかありません(下記MVだと、曲の前後がちょっとあるんで2分超えてますが)。

最近のヒットのきっかけが、SNSにおけるショート動画のバズであることが多い現状だと、尺の長い曲もその一部を切り取ってアップしていくことが、マーケティング上求められる時代。逆にいえば、「尺の短い曲」を作って公開し、そのままヒット曲として認知されていくことが増えるのも自然なことかなと思います。

続いて、「TOP40ヒットの収録が少ない」という点ですが、確かに「収録されていない大ヒット曲」はあります。しかし、「コンピへの収録を拒否するアーティスト」はかつてから存在しますし(※時代によって、そのスタンスが変わるアーティスト/楽曲もあります)、『NOW』はイギリスでは大変認知の高いコンピ・ブランドであり、メジャー・レーベルが制作(※現在はSONYがブランドの権利を持ち、UNIVERSALとJVで制作)していますので、必ずしも制作クオリティが下がっているとは考えられません。ではなぜ、このような内容になるのかといえば、

「TOP40ヒットの数が少ない」

「人気アーティストの曲が、必ずしも“シングル・ヒット”しない」

という状況が背景にあります。こちらはイギリスの公式チャート「Officialcharts.com」のシングルチャートですが、

https://www.officialcharts.com/charts/singles-chart/

各順位の楽曲の「LW」という表記、これはLAST WEEK(先週)の順位を示していますが、見ていただければ分かる通り「ほとんどが先週もTOP40に入っている」楽曲です。象徴的なヒットとして、1位の”Rein Me In”(『NOW122』に収録)は、1950年代から破られていなかった「通算1位獲得週数」の記録を更新しました(19週)。

つまり

ヒットチャートに動きが少なければ、TOP40ヒットの数は減って当然

ですよね。この背景としては、「ストリーミングの普及」があると考えられます。Officialchartsは、ストリーミングや動画共有サイト(YouTube)での再生回数、ダウンロード販売数、CDやレコードといった「フィジカル」フォーマットの販売数の集計により作成されるのですが(※ラジオのAirplayは反映されない)、ダウンロード市場は極めて小さいものになっていますし、CD /レコードのシングルは、発売されない楽曲がほとんどです(発売されても限定枚数など。そうなると、ヒットの指標としては「ストリーミング/動画」再生回数によるところが大きくなります。そして、こうした分野では、

一度ヒットした曲が、長く聴かれる傾向がある

わけです。専門家による様々な分析があると思いますが、「ヒット曲はさまざまなプレイリストに含まれ」「ストリーミングのアプリから再生をサジェスト(提案)される機会も増える」というのは容易に想像できます(もちろん、ロング・ヒットしているのは、そもそも「いい曲」が多いのは当然ですけどね)。

一方、こうしたストリーミングで弱い楽曲/アーティストは、現在のチャートではパフォーマンスしづらくなっています。つまり、

熱心なファンが多くいても、チャートヒットにならない曲も、少ないない

わけですね。たとえば、前述の『NOW123』の収録曲で、TOP100に入っていない楽曲の1つとして、こちらがありました。

DECEMBER 10は、Netflixのドキュメンタリーシリーズから誕生した7人組ボーイ・バンド/ボーイズグループであり、今年日本にも「SUMMER SONIC」出演、および単独公演も発表になっているグループなのですが、

DECEMBER 10

DISC2に入っていた「Run My Way」という曲も最高位は68位でした。では、イギリスで人気がないのかというと、そんなことはありません。これらの楽曲を含むデビュー・アルバムは、「初登場で5位」を記録しています。アルバムチャートは、CD等を「購入する」という熱心なファンを持つアーティストは、結果を出しやすいチャートになっています。

「CDやレコードを買って聴くけど、ストリーミングとかはやらないな」という熱心なファンが多いタイプのアーティストとしては、

大物ベテラン・アーティスト

もいますよね。今年、超大御所アーティスト2組が、作品をリリースしました:

上記の曲はどちらもTOP40ヒットにはなっていませんが、これらを含む最新アルバム:ザ・ローリング・ストーンズの『フォーリン・タングス(Foreign Tongues)』、ポール・マッカートニーの『ダンジョン・レインの少年たち(The Boys of Dungeon Lane)』は、どちらもUKアルバム・チャートでは1位を獲得しています。

そして、これら2曲は、『NOW』の最新作である『NOW124』(2026年7月31日UK発売)に収録されているんです(CD2のラスト2曲)。

現在の『NOW』(CD)を購入する層は、自分のようなアダルト/シニア層が、イギリスでも多くなっていることでしょうから、「ヒットアルバムに収められている曲」も、そうした層にとってはヒット曲と定義づけられるかもしれません。また、『NOW』を通じて、かつて熱心に聞いていたベテラン・アーティストの「最新曲」に触れ、その収録アルバムに興味を持つ…という逆ルートでの認知促進にも貢献していると思います。

最新の「ストリーミングに強いヒット曲」を当然押さえつつも、ヒット曲の定義をナチュラルに拡大し、購入者とポップ・ミュージック/アーティストを繋ぎ続ける『NOW』。シリーズが続く限り、自分は購入し続けることでしょう(ちなみに、まだ手元に届いていないのですが、この最新作『NOW124』の収録分数は、60分〜70分台となっているようです)。