こんにちは。ENTiP 弁理士・行政書士の山中と申します。
「ヒットチャート」とか「ランキング」というと、さまざまな声が聞こえてきます。
「私が推しているアーティストを、なんとか1位にしたいと思って、ファンたちは頑張ってるんだよ」
とか、
「最近の若い子達は、ヒットチャートなんて全然意識してないよね」
とか。どっちなんだい?いやどっちも正解なんだろう(人によって)、と受け止めていますが、
自分は「ヒットチャート」に育てられた音楽ファン(であり、旧業界人)であったことは間違いありません。小学生の頃(80年前後)から、ニッポン放送の「オリコン全国ヒット速報ベスト100」とか、各局独自のランキング番組、そして「ザ・ベストテン」「ザ・トップテン」といった番組で新曲をチェックするような子供でしたし、
洋楽が聞けるようになったのもニッポン放送「ポップス・ベスト10」という番組がきっかけ。その後、本格的に洋楽にのめり込むようになってからは、ラジオ日本の「全米トップ40」「全英トップ20」、FEN、今も続くtvkの「Billboard top40(※開始時はtop50だった)」などを見聞きして、多くの素晴らしい楽曲やアーティストに出会ってきたのです。挙げ句の果て?に、大学では「アメリカントップ40研究会」というサークルに入っていたほどです。
そんな自分が、今年2025年の初めから自らに課したタスクがありまして、
「Billboard Japanと、イギリスのOfficialチャートの、TOP40に入ってきた曲を全てチェックする」
というもの。正直、もう新しい曲と出会わなくても、「既に出会っている曲やアーティスト」で日々十分楽しめますし、ストリーミング時代は「自分が初めて出会った曲は(いつ発表されたとしても)新曲」といわれるように、昔のヒットチャートを掘り起こしているだけでも、十分”新たな出会い”はあるのです。
ただ、一応今でも、専門学校の講師等で、(コンサート業界を目指す)若い学生とも交流していますし、弁理士・行政書士としてのクライアントには、現役のミュージック・マンたちが大勢いますので、少しは新しいものについていこうと。チャートに現れない素晴らしい楽曲があるのは重々承知ですが、前述の通り自分は「チャートを通して」音楽に出会ってきたタイプなのだから、そこはブレてないということにできますし(苦笑)。
https://www.billboard-japan.com/charts/detail?a=hot100
ちなみに、日本以外は「なぜ、イギリス(UK)なのか?」というと、1.グローバルヒットをある程度反映している、2.自分が最も長く、継続的に眺めてきた国のチャートだから、3.(どこの国にもローカルヒットはあるが)UKのローカルヒットが好きだから、という3点です。
https://www.officialcharts.com/
では、この「TOP40に入ってきた曲を全てチェック」という作業が、すごく大変なことなのかというと…あまり負担は大きくありません。なぜかといえば、
「毎週、新たにTOP40入りする楽曲は、それほど多くない」
からです。裏を返せば、
「長期間、TOP40に留まり続けている楽曲が、少なくない」
ということでもありますね。「Billboard Japan」だと、去年から今年にかけては、なんといってもMrs.GREEN APPLE(ミセス)の大量チャートインという状況が目立ちます。彼らの場合は、いわゆる「フェーズ2」(活動休止を経て、3人組になって活動再開しt22年春以降)以降の複数のロングヒットもありますし、最近は短いスパンでの新曲リリースも軒並みヒット、そして「フェーズ2」以降のファンが、ミセスの過去の楽曲をストリーミングで知って聞いているという状況も影響しているでしょう。
しかし、「長期チャートイン」楽曲や、「新旧複数の楽曲をチャートインさせているアーティスト」は、彼らに限りません。また、同じような傾向は、(多くが、Billboard Japanとは異なる曲で構成されている)UKチャートにも言えることです。
そんな中、今年に入って(6月)、こんなエンタメニュースがありました。
Billboard JAPANチャート、リカレントルールを2025年度下半期チャートより導入
https://www.billboard-japan.com/d_news/detail/150020/2
この”リカレント(RECURRENT)”という耳慣れない言葉。もともとは「循環、繰り返し」のような意味の英単語ですが、今回導入されるルールでは、
「『JAPAN Hot 100』に通算52週チャートインした楽曲、『Hot Albums』に通算26週チャートインした楽曲については、ストリーミングポイントが一定の割合で減算される」
ということなんですね。
ここでまず、前提として、Billboard Japanに限らず、日本のオリコン(合算ランキング)、本国アメリカのBillboard、そしてイギリス(UK)の「OfficialChart」といった老舗のヒットチャート/ランキングでも、現在は主に、
「CDやレコードのセールス」+「ダウンロードのセールス」+「ストリーミング(音楽、動画)の再生回数」
等(※Billboard Japanは他にもラジオやカラオケ等の指標も)を加味して順位が決定されています。ちなみに、”ストリーミング”という言葉がピント来ない人は、”サブスク”と置き換えてください(、正確には全く異なる定義ですが)。
「ヒットチャート」算出方法を知ってる?様々なものが登場、「流行」の本質が浮かび上がってくる(読売)
https://news.yahoo.co.jp/articles/f496fae08872b1fa3277096dd6f6117a40340b76
…そして、「リカレントルール」によって、「ストリーミングのポイント」が減算されるということは、
「長くチャートインしている作品は、上位に入りづらくなってしまう」
ということですよね。ストリーミング・サービスの傾向として、一旦ヒットした曲は、(多くのプレイリストで紹介され、提案されていくこともあり)長期間聞かれやすい傾向があり、また「発売日」とか「楽曲ごとの購入」からも解き離れていますから、ストリーミングでの再生ポイントは「火がついたアーティスト、楽曲だと、なかなか減らない」→「ロングヒットを産む要素になっている」ということなのでしょう。
したがって、今回の「リカレント」ルール導入は、TOP40(上位)に留まり続けている楽曲が多い状況の対策といえます。
では、ここでそもそも論。
なぜ、「ロングヒット」がヒットチャート上位に留まり続けていることが、問題なのでしょうか?
そこには、ヒットチャートに期待される「役割」というものが見え隠れします。
確かに、ランキング/ヒットチャートには、「音楽業界にとってのマーケティングデータ」という役割が第一義として期待されます。その点から言えば、正確にヒット(一番売れてる?一番聞かれてる?)の順位であってほしいところですよね、ロングヒットであろうがなかろうが。
しかし、
「ヒットチャートを通じて多くのアーティストや楽曲が紹介されていく」という役割(※ここが担保されないと、チャートのエンタメ性も保たれない)、さらに
「上位にチャートインした楽曲・アーティストには、一定のステータスが与えられる」
という効果もあるわけです。
こうした役割等から言えば、「なるべく多くの、新しいアーティスト/楽曲が入ってきてほしい」、すなわち
チャートの適度な新陳代謝(回転率)、も重要事項
なわけですね。そこで、冒頭のBillboard Japanの「リカレント」導入、という発想になったのでしょう。
そして、こうした考え方は、Billboard Japanに限られるものではありません。実はUKチャート(officialcharts.com)も「ロングヒットに対する、ストリーミングの減算」のようなルールは既に導入されていますし、なんなら「リードアーティストの楽曲はTOP100以内は同時に3曲までしかチャートインできない」なんてルールもあります(※ED SHEERANのアルバム『➗(DIVIDE)]』収録曲16曲が、TOP20を占拠して以降導入)。
もっと言えば80年代中盤、同国では「Various Artistsによるヒット・コンピレーション」がアルバム・チャートを占拠してしまった際、「Compilation Chart」を作ってそちらに移し、一般的な「アーティスト・アルバム」がアルバム・チャートで目立てるようにしたんですから、「ヒットチャートの、新しい作品やアーティストを紹介する役割」を大切にしてきたとも言えます。
(参考)英国OfficialCharts Companyは、チャートルールを公表している
https://www.officialcharts.com/getting-into-the-charts/meeting-the-chart-rules/
また、「リカレント」という言葉に限っても、似たようなルールが最初に本国(米)Billboardで導入されたのは、なんと今から30年以上前の「1991年」でした。ストリーミングなんて影も形もなかったそんな時代に、どういうことでしょう?
米Billboard HOT100は、かつてから、ヒット作りに重要なメディアである「ラジオ」のOA回数と、シングルCDのセールスをベースに作成されていたのですが、そんな時代から、ヒットチャートがこう着状態になってしまうことは起きていたんですね。
そこで、少しでもチャートの「回転率」をあげるべく、「TOP100に入ってから20週がが経過し、かつTOP20(※後に40→50と改変)から落ちた曲を、新設の『HOT 100 RECURRENT SINGLES』に移動させる」ということをしたのが、”元祖”リカレントルールだったようです。
もっとも、翌92年、それまではラジオ局やレコード店からのレポートを信用していた数値を、(ラジオOAは)「Radio Monitor」、(CDセールスは)「POSデータ」を活用することにより、より正確な数値が活用できるようになりました。すると、皮肉にも、実際の上位楽曲のOAやセールスには、週ごとに大きな変化がないことが「より正確に可視化」されてしまったようで、さらに上位に長期間滞在するヒットが多くなってしまったそうです(※たとえば、Boyz II Menの「End Of The Road」が13週連続1位、なんて当時の記録を作った頃ですね)。
…そんな、古参チャートファンには「懐かしさ」すら感じたリカレントという言葉ですが、今回のBillboard Japanの取り組みによりチャートの回転率があがり、新しい楽曲やアーティストと出会える機会が増え、「今週、あの曲は何位かな?」と楽しみにできるような、エンタメ性が担保された”適度な動き”のあるチャートになるなら素晴しいですし、
併せて、「リカレント」ルールが導入されながらも上位に入り続けている曲、
つまり(Billboard Japanでいえば)ミセスやVaundyの楽曲などは、
「真のロングヒット」
として価値がさらに高まっているようにも感じるのです。