こんにちは。ENTiP 弁理士・行政書士の山中と申します。

2025年の夏も「暑い」ですよね。口に出すから暑くなるんだ、と昔は怒られたような気がしますが、そもそも「心頭を滅却」できるような境地に達していませんし、とりあえず「暑い」と口にでも出さないと、やっていられない気分です。

そんな中、こんな記事が目に止まりました。

「暑すぎるから…インドア避暑経済がアツい 映画やデリバリー人気」(日本経済新聞 ※有料記事です)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA16BMC0W5A710C2000000/

熱中症のリスクを避けようと、映画館や屋内型の遊び場など空調の効いた施設に人が集まる…確かにそうでしょうね。ただ、記事中の

『インドア避暑経済』

というキーワード、特に“インドア”の部分、これに自分が強く注目したのは、昨今もう一つ自分の気になっているトピックと結びついてくるからなのです。

ところで自分は、プロ野球観戦が趣味ですし、また同じぐらいライヴ・コンサートや音楽フェスも大好きな人間です。特に後者については、コンサート・プロモーターで仕事にしていたぐらい関心が高い領域なのですが、そのどちらでも使用するのが、

「スタジアム」

です。では、みなさんがこの言葉を聞いて、思い浮かべるのは、

「インドア」ですか?それとも「アウトドア」ですか?

まず、自分の場合、仕事(ライヴ・コンサート)で最も多く足を運んできたスタジアムがこちらです。

「東京ドーム」(※1988年開場)
https://www.tokyo-dome.jp/

もちろん、読売ジャイアンツの本拠地ですから、野球の試合がファースト・プライオリティです。しかし、全天候型で一年中快適に過ごせる、都内最大キャパシティの「インドア」施設ですから、ライヴや様々なイベントに使用希望が絶えません。オーディエンス目線で行っても、天候や気候に左右されずに楽しめるのは、大きいですよね。

一方、おそらく自分がプライベートで最も足を運んできたスタジアム、こちらは「アウトドア」です。

「横浜スタジアム」(※1978年開場)
https://www.yokohama-stadium.co.jp/

横浜DeNAベイスターズの試合だけでなく、ライヴ・コンサートも、かつてはマイケル・ジャクソンやプリンスといった大物が、今年だけ取り上げてもももいろクローバーZや日向坂46、マカロニえんぴつ、そしてTUBEなどの公演が実施・予定されています。

ところで、アメリカ(MLB)シカゴ・カブスの本拠地、「リグレー・フィールド」には、1988年まで、ナイター施設すらなかったそうです。これは、球団オーナー(当時)の「野球は太陽の下でやるものだ」というポリシーに従ったものですが、そもそもアウトドアでなければ、太陽の光を直接浴びることもできません。

実際、夏のナイターなど、夜空の下でビールなどを飲みながらの観戦は格別です。これは「インドア」では決して楽しめない醍醐味です。

しかし、近年、「インドアがいいか、アウトドアがいいか」という論争に、新たな、しかし重要なファクターとなってきたのが、本稿冒頭でも触れた「夏の暑さ」問題です。アウトドアでも「ナイター」ならまだしも、日中のフィールドは40度を超える気温になってしまうこともしばしば。

日本を代表するアウトドア・スタジアム「阪神甲子園球場」で行われる「夏の全国高校野球」ですら、さまざまな議論がなされている現状です。

「高校野球 7イニング制の検討 高野連が広く意見募集へ」(NHK NEWS WEB)https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250521/k10014812611000.html

そんな中、ナイターであっても「暑すぎる」ことが課題になっている、「インドア」なスタジアムも存在します。

「ベルーナドーム(西武ドーム)」(※1979年開場・1999年ドーム化)
https://bellunadome.seibulions.co.jp/

です。もともとは「アウトドア」スタジアムとして開場しましたが、1999年に屋根を架設し「インドア」化、つまりドーム球場としてリニューアルされました。しかし、その屋根は、スタンドの最上段から伸ばした柱で支えられていますがが、屋根とスタンドの隙間に壁を造らない設計で架設されたため、

「空調施設なし」

なのです。その隙間から「自然の風が入ってくることが楽しめる」こと、雨天中止がなくなったことから、(冬の寒さのみ我慢すれば)利便性は向上したかに思えましたが、想定を覆してしまったのも、日本の酷暑化です。

暑すぎる西武のドーム球場は「換気の悪い体育館」「サウナでプレー」 まず球場の改修から改革を(AERA)
https://dot.asahi.com/articles/-/229495?page=1

内陸の狭山丘陵に位置する立地条件から、夏場は、もともとアウトドアでのナイターでも蒸し暑かったそうですが、「空調施設のないインドア化」によって、熱気や湿気がこもりやすくなったため、この傾向はより顕著になったと言われています。こうした構造上の固有の特徴に、酷暑が拍車をかけているといえそうです。

そんな中、「インドア」と「アウトドア」の、いい部分を併せ持ったスタジアムも登場しています。

「エスコンフィールド北海道」(※2023年開場)
https://www.hkdballpark.com/

こちらは

「開閉式屋根付き野球場」

となっています。米MLBでは決して珍しくない開閉式ですが、日本ではここと、「みずほPayPayドーム」(福岡ドーム)のみですね。もっとも北海道ですので、暑さ対策というよりは、雪や寒さ対策で屋根を閉じる必要があるわけですが、天候のいい夏場は屋根が開放されますし、プロ野球にとっては理想的といえる天然芝(※外野のみ)が導入されています。このスタジアム、というよりボールパークの魅力は「開閉式」だけではありませんが、地元北海道のファンのみならず、同球場を訪れたビジターチームのファン(※筆者含む)からも、大変好意的に受け止められているといえるでしょう。

このように見てくると、

「インドア」x 「避暑経済」x 別テーマですが「ライヴ・コンサートの会場不足」

とキーワードを掛け合わせれば、新しくスタジアムを作るなら、

インドア(ドーム。できれば開閉式)しかないじゃないか!

という結論に、どう考えても帰結すると思うのですが、ここでまた、大きな「壁」になるキーワードが出てきます。

「建設費の高騰」

です。スタジアムではありませんが、やはりその減少がコンサート業界では問題となっている貴重な「ホール」が失われ、そして代替として生まれるはずだった「アリーナ」まで白紙となった下記事案も、原因は、建設費の急騰です。

中野サンプラザ再開発、区の「白紙」方針が正式決定 区議会が議決(朝日新聞)
https://www.asahi.com/articles/AST6L33HKT6LOXIE04TM.html

そんな中、注目されていたのは、下記のアウトドア・スタジアムの将来です。

ZOZOマリンスタジアム(千葉マリンスタジアム)(※1990年開場)
https://www.marines.co.jp/stadium/

千葉ロッテマリーンズのフランチャイズであり、夏の音楽フェス「SUMMER SONIC」の会場として親しまれるこちらも、開場から30年が経過し、老朽化が課題となりました。そして「同じ場所での改装か、別の場所での新築か」「新築ならインドアか、アウトドアか」というオプションが検討されてきました。

しかし、「インドア」なスタジアムが(特に首都圏に)増えれば、野球のオフシーズンには(寒さの心配なく)ライヴ・イベントにフル活用できるのはもちろんのこと、夏場の野球選手と野球ファン/ステージに立つアーティストとオーディエンスの「健康面」にとっても心配なく、興行が実施できるのですから、両方のファンとしてはもう、絶対に「インドア(できれば開閉式)であるべき」と思っていましたが…結論はこちらのようです。

千葉ロッテの新球場、34年にも開業へ 幕張メッセ駐車場に屋外型(日本経済新聞)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC161DI0W5A510C2000000/

全般的な物価上昇、中でも建築資材の高騰や、円安の影響。そしてなんといっても人手不足から来る労務費の上昇…そのような状況で、建設業の倒産件数も2024は過去10年間で最多だったと聞けば、もう費用に転嫁されざるを得ないのは理屈としては理解できますし、増加した費用をどれだけの期間で回収できるのか。これは「安全に、野球と様々なイベントでフル活用できる」と一ファンが吠えたところで、リスクを負う立場でない以上、どうしようもないことなのかもしれません。

ただ、千葉の近いエリアでは、新たに作られる「アリーナ」について、このような報道もありました。

「ヒューリック、千葉・幕張のアリーナ計画案発表 国内最大級2万人規模」(日本経済新聞)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC30AP90Q5A630C2000000/

スタジアムと違って、アリーナ(1万人〜3万人)については、当然「インドア」ですし、人気アーティストやイベントの「大規模化」や、Bリーグの人気上昇から、マルチユースがしやすく、全国でも施設増の状況です。そんな中の上記ニュースですが、その建設手法「負担付き寄付」が目をひきました:

・同アリーナをフランチャイズとするチームのオーナーでもある「ヒューリック」社の資金で建設し、
・それを千葉市に寄付し、
・千葉市の指定管理者としてヒューリック社が運営権を得る

という手法だそうです。これにより固定資産税が免除され、建設費が高騰する中でもコスト削減につながりやすいとのことです。

一企業に「お金を出してくれ!」というのは虫がいい話だと思います。一ファンとしてはとても歯がゆい状況です。しかし、野球(スポーツ)と、音楽(ライヴ、フェス)の未来、それも文化的な意義だけではなく、商業的ポテンシャルも含め、その可能性に賭けてくれる企業、つまり

「エンターテイメント全体のオーナー」たらんとする企業

が、少しでも多く登場することを祈り続けたいと思います。そしてそうした施設ができた暁には、身の丈の範囲でではありますが、しっかり足を運びますと誓いながら…